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岐阜地方裁判所 昭和52年(ワ)632号 判決 1983年5月11日

原告 甲野一郎

右訴訟代理人弁護士 小久保義昭

被告 岐阜県

右代表者知事 上松陽助

右訴訟代理人弁護士 土川修三

被告 株式会社岐阜日日新聞社

右代表者代表取締役 杉山幹夫

右訴訟代理人弁護士 東浦菊夫

同 古田友三

右東浦菊夫訴訟復代理人弁護士 広瀬英二

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

第一請求の趣旨

一  被告らは、原告に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する昭和五二年一〇月八日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文と同旨

(当事者の主張)

第一被告株式会社岐阜日日新聞社に対する請求について

一  請求原因

1 被告株式会社岐阜日日新聞社(以下被告新聞社という。)は、昭和四九年四月九日付岐阜日日新聞紙上に、「山林売買一億円の仕掛け、五人組が名演技、他人の山見せカモる」との四段抜きの見出しのもとに「多治見署と県警捜査二課は最近の土地投資ブームに便乗、樹木もほとんどない荒れた山林をサクラを使った巧妙な手口で不当に高く売りつけぼろもうけしたいわゆる仕掛け売りグループの詐欺事件を捜査していたが、八日までに二人を逮捕三人を任意で調べいずれも詐欺の疑いで岐阜地検多治見支部へ送検した。」との記事及び「事件の概要」と題して「逮捕されたのは土岐市下石町自動車修理販売業甲野一郎(四六)と同町製陶業乙山二郎(四八)、任意で調べられたのは名古屋市北区大曽根町測量士丙川三郎(三七)、瑞浪市大湫町タイル加工丁原四郎(四二)、愛知県春日井市神屋町会社員戊早五郎(二七)。調べでは、五人は昨年六月加茂郡七宗町地内の山林四万九千五百八十六平方メートルを二百三十万円で手に入れた。この山林を多治見市内の会社員Aさん(三六)に買うように持ちかけ全く別の山林に案内して信用させるなど巧妙な手口でおよそ十倍の二千百万円で売りつけた。」との記事を、原告らの顔写真入りで掲載報道した(以下同新聞紙上に掲載された原告らにかかわる報道記事を本件記事という。)。

2 ところで、新聞記事の一般読者は、まず見出しと冒頭に報道された記事を読み、これによって最も強く印象づけられるのであって、新聞記事による名誉毀損の成否は、一般読者の普通の注意関心と右に述べた通常の読み方とを基準として、一般読者が当該記事から受ける印象に従って判断すべきところ、本件記事中右に指摘した部分は、これを読んだ一般読者に対し、原告が、本件記事に掲載の被害金額総額一億円にのぼる一連の詐欺事件(以下、本件一連の詐欺事件という。)のすべてにつき共犯者であり、とくに「事件の概要」に記載の被害者Aに対する詐欺事件につき主犯格で関与したとの印象を与えるものとなっており、さらに、本件記事の見出しは、表現上慎重性に欠け、断定的、誇張的で、興味本位なものとなっている。

しかしながら、原告は、本件一連の詐欺事件のいずれについても共犯者ではなく、また被害者Aに対する詐欺事件につき何ら関与していなかったのであるから、本件記事の内容は明らかに虚偽であり、その興味本位な見出しとあいまって、原告は、本件記事の報道により、社会的に葬られ、名誉信用を失い、かつ甚大な精神的苦痛を蒙った。

3 本件記事は、被告新聞社の業務執行として、その被用者である取材記者によって取材され、同じく被用者である編集担当者によって編集されたうえ、岐阜日日新聞紙上に掲載されたものであるところ、被告新聞社の被用者である取材記者及び編集担当者は十分な調査もせずに本件記事を掲載した過失があるから、被告新聞社は民法七一五条一項により、原告の蒙った損害を賠償すべき義務がある。

4 原告が、右名誉信用毀損により蒙った財産的損害及び精神的苦痛を評価すると少くとも金一〇〇〇万円を相当とするところ、その内金として金二〇〇万円の支払を請求する。

5 よって、原告は、被告新聞社に対し、損害賠償金二〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五二年一〇月八日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告新聞社の認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2は争う。

本件記事は、原告主張のような印象を一般読者に与えるものではない。本件記事の「事件の概要」の部分は、原告を含む五名の被疑者の被疑事実を概括的に記載したもので、各被疑者の被疑事実を個別的に記載したものではなく、さらに、本件記事中請求原因1に記載の部分に引き続き、これとは別個に「犯罪の手口」と題して、一例として被害者Aに対する詐欺の被疑事実(原告は当該事実の被疑者に含まれていない。)を示した後に、「このほか同じ手口でそれぞれ役者を変え、荒れた山林を不当に高く売りつけていた。」と説明しているもので、五名の被疑者が本件一連の詐欺の被疑事実のすべてに加わっているのではないことを明確に表示しているものである。

3 同3、4はいずれも争う。

三  被告新聞社の主張

1 本件記事の内容たる事実は捜査機関において捜査中の犯罪行為に関するものであって、被告新聞社は専ら公益を図るためにこれを報道したものであり、しかもその内容たる事実はすべて真実であるから、本件記事を報道したことに違法性はない。

すなわち、本件一連の詐欺事件は、丙川三郎を主犯とする、乙山二郎、丁原四郎、戊草五郎及び原告の五名のうち二名あるいは三名が交互に一つのグループとなり、そのグループ毎に同じ手段方法で、すなわち一名が土地所有者あるいは売渡人となり、土地の買受希望者をでたらめの土地に案内し、他の一、二名が既に手付金を支払ったとか、高価に買う意思があるなどと虚偽の事実を告げて買受希望者を騙し、買受希望者に対し、高額の代金による買受を承諾させ、案内した現地とは別の価値なき土地を登記して渡し、代金名下に金員を詐取した数件の事件である。

そのうち、原告は、丙川三郎と共謀のうえ、昭和四八年七月頃、被害者星空澄渡に対し、岐阜県加茂郡白川町の山林一万五〇三一平方メートルを売却するに際し、原告において原告が既に一〇〇万円の手付金を支払っている旨の偽虚の事実を申し向けて、右山林が価値あるものの如く装い、代金名下に八五〇万円を騙取し、また同年五月頃、被害者雪中白色に対し、岐阜県加茂郡川辺町の山林四五一九平方メートルを売却するに際し、丙川三郎及び原告において右山林は原告の所有であり、既に戊草五郎が買い手に決っている旨の虚偽の事実を申し向けて、右山林が価値あるものの如く装い、代金名下に現金一〇〇万円及び額面三〇〇万円の小切手一通を騙取したものである。

以上のとおり、原告は、本件一連の詐欺事件の一部につき共犯者として関与しているのであって、被告新聞社は真実を事実として報道したものである。

2 かりに本件記事の内容が真実でないとしても、被告新聞社は、本件記事の内容が真実であると信じ、かつそう信じるにつき相当の理由があった。

すなわち、本件記事は、昭和四九年四月八日、多治見警察署において、刑事課長山田芳之が被告新聞社取材記者に対し、本件記事と同旨の内容を記載したメモ(以下本件メモという。)を交付したうえ、これに基づきなした公式発表に基づき作成されたものである。

したがって、被告新聞社が本件記事を報道したことにつき故意、過失はない。

四  被告新聞社の主張に対する認否

1 被告新聞社の主張1は争う。

原告は、被害者星空澄渡及び同雪中白色に対する各詐欺事件につき、丙川三郎と何ら共謀した事実はなく、丙川三郎に利用され、使役されたという点で関与したにすぎないから、右各詐欺事件の共犯者ではなかった。さらに、星空澄渡の買い受けた山林は、昭和四八年頃の土地ブーム時において一〇〇〇万円以上の価値を有しており、また雪中白色の買い受けた山林は同年六月当時四五一万九〇〇〇円の価値を有していたから、同人らにおいて何ら損害は発生しておらず、いずれも詐欺罪は成立しない。

2 同2のうち、本件メモの内容が本件記事と同旨であったとの点を除き、被告新聞社主張のとおりの多治見警察署による公式発表があったことは認めるが、その余は争う。

本件メモの内容は、被害者Aに対する詐欺の被疑事実に共犯者として関与したのは被疑者丙川三郎、同乙山二郎及び同戊草五郎の三名であり、原告は何ら関与していない旨記載されているものである。

しかるに、被告新聞社は、本件メモ及びこれに基づく公式発表に反し、被害者Aに対する詐欺事件に原告が主犯格として関与したかの如く印象づけられる内容の本件記事を、何ら裏付け取材をすることなく報道したものであるから、被告新聞社に過失があることは明らかである。

第二被告岐阜県に対する請求について

一  請求原因

1 昭和四九年四月八日、多治見警察署において、同署刑事課長山田芳之は、本件メモを各新聞記者に対し配付したうえ、本件メモに基づき、原告らによる詐欺被疑事件の公式発表を行った。

2 右山田芳之は、右公式発表において、原告が本件一連の詐欺事件のすべてについてその共犯であるかのごとく発表した。すなわち、本件メモの第一頁には、被害総額約一億円にのぼる本件一連の詐欺事件を検挙した旨記載されるとともに、その容疑者として原告を含む五名の氏名が列挙されていたものであり、したがって、本件メモ及びそれに基づく本件公式発表は原告が本件一連の詐欺事件のすべてに共犯者として関与して検挙されたものとの印象を与えるものであった。

しかして、本件公式発表に基づき作成された本件記事は前記第一の一1、2のとおりであり、これが昭和四九年四月九日岐阜日日新聞紙上に掲載されたため、原告は社会的に葬られ、名誉信用を失い、かつ甚大な精神的苦痛を蒙った。

3 かりに、原告が被害者星空澄渡及び同雪中白色に対する詐欺事件につき共犯者として関与していたとしても、原告は右二件(被害金額は一〇〇〇万円に満たない。)しか関与していないのであるから、警察当局としては本件公式発表にあたり、原告が本件一連の詐欺事件七件のうち二件についてのみ関与していること、その被害金額、原告の右各事件における役割等につき具体的に発表し、新聞記者をして、原告が本件一連の詐欺事件のすべてに関与しているかの如き誤解を与えないよう配慮すべき注意義務があるのに、本件公式発表はこれを怠って漫然となされたものであり、その結果現に被告新聞社の担当記者に右のごとき誤解を与え、被告新聞社において前記第一の一1、2記載の本件記事を掲載するにつきその原因を与えたものである。

したがって、本件公式発表は、過失により被告新聞社の名誉毀損行為に原因を与えこれに加担したものということができるから、被告岐阜県(以下、被告県という。)は責任を免れることはできない。

4 原告は、昭和四九年三月一四日、星空澄渡及び雪中白色に対する各詐欺容疑により逮捕され、多治見警察署留置場に約二週間拘禁されたが、右拘禁期間中、原告の独房廊下に吊り下げられていた電燈は、独房窓に密着して夜通し一〇〇ワットで独房内を照射しており、原告が姿勢を変える度に右電燈も自在に方向を変えて原告を照射し続けていたもので、原告が就寝に際し消燈してほしい旨懇請しても聞き入れられなかったため、原告は、夜間の睡眠が妨げられて疲労し、食事も満足に採れず胃腸を害し、かつ極度の精神的肉体的疲労と緊張から精神状態に異常を来し、幻覚を覚えるまでになり、遂に虚偽の自白をなすに至った。

しかしながら、かりに保安上の必要により夜通し点燈されることが許容されるにせよ、照明度を落し、収容者の睡眠が可能となるよう配慮すべきであるのに、かかる配慮は何らなされなかったから、右に述べた原告に対する処遇は保安の必要性の限度を逸脱した違法な行為といえる。

5 以上のとおりの犯罪事実の公表及び人権を無視した取調は、公共団体の公権力の行使に当る公務員たる警察官がその職務を行うにつき、故意または過失により違法に原告に対し損害を与えるものというべく、右各行為は国家賠償法一条一項に該当するから、被告県において賠償責任を負うものである。

6 そして、前記名誉信用の毀損並びに違法な取調による財産的損害及び精神的、肉体的苦痛を評価すると、少くとも金一〇〇〇万円が相当であるところ、その内金として金二〇〇万円を請求する。

7 よって、原告は被告県に対し、損害賠償金二〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五二年一〇月八日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告県の認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2のうち、本件メモの与える印象の点を除き、本件メモの記載内容が原告主張のとおりであったことは認めるが、その余は争う。

本件メモの記載内容及び本件公式発表が原告主張のような印象を与えるものでないことは本件メモの記載から明らかである。また本件記事が原告主張のような印象を与えるものでないことは、前記第一の二2のとおりである。

3 同3は争う。

4 同4のうち、原告が、その主張のとおり逮捕され、一四日間留置され、その間に各容疑の外形的事実につき自白するに至ったこと、原告の独房廊下に電燈が吊り下げられており、始終点燈されていたこと及び右電燈は自在に方向を変えられるものであることは認めるが、その余は争う。

右独房に対する照明は、保安上の必要から始終点燈されている右電燈によるもので、眠れないほどの強い光度のものではない。実際に、右留置期間中、原告あるいはその弁護人から、照明について苦情の申し出は全くなかった。

5 同5、6はいずれも争う。

三  被告県の主張

本件事件発表は、公共の利害に関する事柄につき、専ら公益を図るためになされたものであり、しかもその内容がすべて真実であることは前記第一の三1のとおりであるから、本件事件発表に何ら違法性はない。

四  被告県の主張に対する認否

被告県の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

第一  被告県に対する請求について

まず、被告県に対する請求について判断する。

一  名誉毀損の主張について

1  《証拠省略》によれば、多治見警察署刑事課長山田芳之は昭和四九年四月八日同署刑事課において被告新聞社担当記者らに対し、本件メモを配付したうえ、原告ら五名を、本件一連の詐欺事件の被疑者として検挙した旨を発表したこと(以上の事実は当事者間に争いがない。)、右発表はまず本件メモを朗読した後新聞記者の質問に答えて若干の補足説明を加えるという方法で行われたが、本件メモの内容は次のとおりであったこと、すなわち、本件メモは、その冒頭に被疑者検挙に至る経緯として「多治見署、本部捜二課は、本年二月始めから、土岐市を中心に最近の土地投資ブームで素人が土地山林売買に手を出しているのに目をつけて、山林売買の「サクラ」を使って不当に高く山林を売りつける、いわゆる仕掛売のグループがあることを聞込、捜査していたが、このほど二名を逮捕し、三名を調べて総額一億円余にのぼる詐欺事件を検挙した。」と記載し、次いで「被疑者」として順に丙川三郎、丁原四郎、戊草五郎、原告、乙山二郎以上五名の住所、職業、年令及び氏名を挙げ、さらに「犯行概要」として「被疑者丙川三郎が二三〇万円で買入した加茂郡七宗町川奥四四四五の一八六(四九五八六m2)の山林を不当に高く売りつけることを図て、戊草五郎が売主、乙山二郎が買主、丙川三郎が仲介人となって、S四八・六月ころ丙川が多治見市内会社役員Aさんに対し、「春日井市志水さん所有の山林が一五〇〇〇坪あり、これを下石町乙山二郎さんが三〇〇〇万円で買うといっているが乙山さんは八月中ころしか金が出来ないので三〇〇万円の手金を打っている。戊草さんは早く金が必要なため、その山林を二四〇〇万円で売るといっている。と誘いかけたので、Aさんは買主の乙山二郎を訪問したところ、乙山二郎は「山林は丙川に案内してもらって知っている。三〇〇〇万円では安い。三〇〇万円手金を打つので買っておいてくれ、八月一五日には三〇〇〇万円で買う。」と真実買う意思もないのに買うように装って、かつ売買山林とは別のよい山林を見せて信用させ、山林売買代金名下に二一〇〇万円をだましとったものである。」と記載して、被疑者丙川三郎、同戊草五郎及び同乙山二郎による被害者Aに対する詐欺事件を例にとって犯行手口を具体的に説明したのち「尚、被疑者達は二、三人がグループとなって、前同様の手段で、山林を時価の三ないし一〇倍で売りつけ、現金一億円を騙取したもの」と付け加えた、以上のとおりの内容であったこと、ところで、関連する多数の被疑事件の捜査経過について一括して公式発表する場合、そのうちの典型的な事件を例にとってその手口等を詳細に説明することにより全体の事件の説明に替え、その余の事件について説明を加えるとしても概括的なものにとどめるという方法は、当時の新聞等の記者に対する公式発表の方法として普通に行われていたところであり、本件一連の詐欺事件の公式発表の際も右発表方法を踏襲し、被害金額の最も大きいAに対する詐欺事件を例にとってその手口等を説明し、その余の事件の被疑者の氏名及び事件の内容について具体的な説明を加えず、前記のとおり、たんに「被疑者達は二、三人がグループとなって、前同様の手段」で犯行に及んだ旨補足するにとどめたものであること、以上のとおり認められる。

そこで、本件公式発表の原告に関する部分についてその内容を検討するに、本件公式発表においてその犯行内容を具体的に例示されたAに対する詐欺事件の共犯者は丙川三郎、戊草五郎、乙山二郎の三名であって、原告は右事件の共犯者とはされていないこと、本件公式発表は原告が共犯者として関与した事件の数及びその具体的内容は明らかとしていないものの、本件一連の詐欺事件のうちAに対する詐欺事件と同一手口のその余の事件の一部に他の共犯者とともに原告も関与したことを窺うことのできる内容のものであったということができる。

原告は、本件公式発表において、多治見警察署刑事課長山田芳之は原告が本件一連の詐欺事件のすべてについてその共犯であるかのごとく発表したと主張するが、原告の右主張は上記認定事実に照らし採用することができない。

また、原告は、かりに原告が本件一連の詐欺事件の一部に共犯者として関与していた事実があるとしても、警察当局が新聞記者に発表するに際しては、原告が右事件のすべてに関与していたとの誤解を新聞記者に与えないように配慮すべき注意義務があるのであり、具体的には本件一連の詐欺事件のうち原告が関与した事件数、その被害金額、原告の果した役割等につき具体的に発表すべきであるのに、本件公式発表は原告が関与した事件数及びその内容を明らかとせずに漫然となされたため本件一連の詐欺事件のすべてに原告が共犯者として関与しているかのごとき誤解を新聞記者に生じさせた旨主張するが、警察当局が関連する多数の事件につき記者発表する場合には、誤解を生じさせない限りこれを要約して発表することはもとより許されるところであって、右の多数の事件のすべてにつき常にその内容を個別的・具体的に発表しなければならないということはない。例えば、本件におけるがごとく、本件一連の詐欺事件の一部に原告が共犯として関与したとの趣旨の発表をすることも、それが真実でありかつその趣旨が明らかである限り許されるものというべく、したがって、原告が主張するごとく、記者発表により誤解を生ずることを避けるための手段として原告が関与した事件数及びその関与の程度等を常に具体的に発表しなければならないというものではない。また、本件公式発表の内容が前記のとおりである以上、その発表内容を通常人の注意をもって検討するならば本件公式発表により新聞記者が原告主張のような錯誤に陥いるおそれがあるとは認め難く、却って、《証拠省略》によれば、本件公式発表の場に出席した被告新聞社担当記者棚村勇夫はそのような錯誤に陥ったことはなく、本件一連の詐欺事件のうち原告が関与したのはAに対する詐欺事件と同一手口のその余の事件のうちにあるとの認識を得ていたことが認められる。したがって、原告の右主張も理由がない。

2  ところで、本件公式発表の内容が原告主張のとおりではなく、右に認定したとおりであるとしても、原告に関し本件一連の詐欺事件の一部に共犯者として関与したとの内容を含む以上、その事柄の性質上原告の名誉及び信用を毀損するものであることは明らかである。

そこで、その不法行為の成否について判断するに、一般に捜査機関による捜査中の事件に関する公式発表が人の名誉・信用を毀損するようなものを含んでいる場合であっても、その内容が公共の利害に関する事柄であって、専ら公益を図る目的に出た場合であり、かつその内容が真実であることが証明されたときには、右公式発表には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である。

そして、前記認定事実によれば、本件公式発表の内容は未だ公訴の提起されていない人の犯罪行為に関するものであるから、公共の利害に関する事柄であり、また、その公式発表が専ら公益を図る目的でされたことを推認するに難くないというべきである。

そこで、本件公表事実が真実であるか否かにつき検討する。

《証拠省略》を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 丙川三郎は、昭和四八年五月中旬ころ、一〇〇万円で買い入れた岐阜県加茂郡川辺町下麻生字岩戸二五〇四番地の一六の山林四五一九平方メートルを高く売りつけ、代金名下に金員を騙しとろうと考え、同年六月一〇日ころ、多治見市豊岡町の不動産業者である地榮社において、雪中白色に対し、「土岐市下石町の人がその所有する山林を売りたいといっている。この山林は名古屋の人が五五〇万円で買いたがっているが、下石町の人はすぐ金が欲しいので四五〇万円で買い手を捜している。これを買って転売するとすぐ一〇〇万円儲かる。」と嘘の話をもちかけ、同日、雪中を現地へ案内するといいながら、右川辺町の山林と全く異なる山林へ案内した。さらにそのころ、丙川は原告に対し、事情を話したうえ、「山林の売り手になってほしい。」と依頼して、原告の承諾を受け、また戊草五郎に対し「買い手になってほしい。」と依頼してその承諾も得た。そして翌一一日ころ、丙川の指定した土岐市下石町の喫茶店において、丙川が原告を山林の所有者として雪中に紹介し、その際原告は雪中に対し、丙川から依頼されたとおり、右川辺町の山林の所有者であるかのように装った上「喫茶店の開業資金を作るため山林を売りたいので、代金四五〇万円を即金で支払ってほしい。」などと嘘を言った。ところが、雪中は即金では高すぎるから再考するといって帰宅したため、その晩丙川が雪中に対し「代金を四〇〇万にするから買ってほしい。」と電話したところ、雪中もこれを承諾し、翌一二日ころ、土岐市下石町内の喫茶店において、原告と雪中は、丙川の立会のもとに、右川辺町の山林の売買契約書を作成するとともに、原告において雪中より、右売買代金名下にその内金として現金一〇〇万円を受領し、さらに翌一三日、原告と丙川が雪中方を訪れ、雪中より額面三〇〇万円の小切手一通を受領した。

(二) また、丙川三郎は、加茂郡白川町切井字中の瀬一〇九番の七五の山林一万五〇三一平方メートルを三〇〇万円で手に入れ、これを高く売りつけて、代金名下に金員を騙しとろうと考え、昭和四八年七月初めころ、原告に対し、「三〇〇万円で買い入れた白川町の山林を、星空澄渡を騙して高く売りつけようと思う。買い手になってほしい。手数料として三五万円支払う。」と依頼し、原告は丙川三郎が右(一)と同様の手段で金員を詐取しようとしていることを知りながらこれを承諾した。そこで、丙川が、同月上旬ころ星空方を訪れ、「白川町の山林を八五〇万円で買わないか。原告が一〇〇〇万円で買うといっているが、すぐ金を用意できないのだから、この山林を買えば一五〇万円儲かる。」と嘘の話をもちかけたところ、その二、三日後に星空から買い受けたいとの連絡があり、丙川が星空方を訪れて、星空より売買代金名下に八五〇万円を受領した。その翌日、丙川は原告に対し、前記手数料として三五万円を支払うとともに、「星空に、山林を買う手付金として一〇〇万円を支払い、一か月後には残金を持参して支払うと話してくれ。その期日が来たときには、金ができないからといって、山林を買うのを断わればよい。」と打ち合わせたうえ原告に対し右手付金として一〇〇万円を交付し、原告は右打ち合わせに従い、星空方を訪れ、「白川町の山林を買いたい。手付金一〇〇万円を支払った残金は一か月後に支払う。」などと嘘をいい、手付金一〇〇万円を星空に対し支払ったが、右支払期日が到来すると、原告は星空に対し当初の計画どおり右手付を放棄して右山林の買い入れを断わった。

(三) 昭和四九年二月一五日に至り、丙川三郎は多治見警察署に自首し、その後の取調べに対し、同四八年三月ころから同四九年一月ころまでの間に、一四回位にわたり、丁原四郎、戊草五郎、乙山二郎及び原告とそれぞれ共謀のうえ、安価に手に入れた山林の買受希望者を、売り手あるいは買い手の、いわゆるサクラを使って騙し、売買代金名下に金を騙しとる方法によって、約九〇〇〇万円を騙取していた旨自供し、前記(一)の事件はその一部として、原告らと共謀しかつこれと共同して実行したものであり、(二)の事件も原告と共謀のうえ丙川三郎において行ったものである旨自供した。そして、丙川の右自供により発覚した本件一連の詐欺事件は、このうち前記(一)、(二)の事件を含む六件が起訴されたにとどまり、その余は不起訴処分になったが、前記(一)の事件については丙川及び戊草が、前記(二)の事件については丙川が起訴され、それぞれ右起訴事実につき有罪の判決を受け、右判決は確定した。

以上の事実が認められ、したがって、原告は前記(一)、(二)の事件につき主犯者丙川と事前に共謀し、また(一)の事件については丙川とともに実行行為に加わったものであり、右両事件の共犯者であったことは明らかである。

もっとも、《証拠省略》によれば、原告は、前記(一)、(二)の各詐欺容疑で、昭和四九年三月一四日逮捕され、多治見警察署留置場に約二週間拘禁されて、右各詐欺容疑事実につき取り調べを受けた(以上の事実は当事者間に争いがない。)ものであるが、原告は前記(一)の容疑事実につき、外形的事実はほぼ認めたものの、丙川との共謀の点を争い、丙川から売主になってほしいと依頼されたにすぎず、その余の詳しい事情は何ら聞いていないと供述し、また前記(二)の容疑事実につき、やはり外形的事実はほぼ認めたものの、当初は真実星空から山林を買い受けるつもりであったと供述し、同月一八日に至り、実は買主になってほしいと丙川から依頼されたものであることを自供したが、丙川との共謀の点を争い、詳しい事情は何ら聞いていないと供述したこと、結局原告は、前記(一)の容疑につき、丙川に利用された点を考慮されて起訴猶予の、前記(二)の容疑については関与の点につき証拠不十分であるとして嫌疑不十分の、いずれも不起訴処分となったことが認められるけれども、原告が上記認定の言動をしたことが外形的に認められる以上、その言動の内容にかんがみ、丙川が前記(一)、(二)の各被害者から前示認定の手段によって金員を詐取しようとしていることを知りながら、それと意思を通じてその犯行に加担したものと推認するのが相当であるうえ、《証拠省略》によれば前記(一)、(二)の事件につき丙川と共謀している事実を認めるに十分であることはさきに説示したところであり、したがって、原告が前記(一)、(二)の事実につき不起訴処分になり、特に前記(二)の事実に関する不起訴の理由がいわゆる「嫌疑不十分」であったとしても、それだけでは前記認定の妨げとなるものではない。

また、《証拠省略》中、前記(一)、(二)の各事件につき原告がいずれも丙川と共謀した事実はなく、丙川に利用され使役されたにすぎないとの原告の主張に沿う各記載部分及び各供述部分は、いずれも、前掲各証拠及び前記(一)ないし(三)に認定の事実経過に照らし、信用し得ないものといわざるを得ない。

次に、原告は、星空澄渡及び雪中白色の買い受けた山林はいずれも相当の価値を有しており、同人らにおいて何ら損害は発生していないから、いずれも詐欺罪は成立しない旨主張するが、右各山林の価値に関する原告の主張事実を認めるに足りる証拠がないだけでなく、相手方を欺罔して、山林の売買代金名下に金員を騙取したことが明らかである以上、相手方に引渡した山林の価値がどの程度のものであったかは詐欺罪の成立自体には関係がないと解すべきであるから、原告の右主張が失当であることは明らかである。

以上のとおりであって、原告は本件一連の詐欺事件のうちの一部、すなわち被害者雪中白色及び同星空澄渡に対する各詐欺事件に共犯者として関与したことが認められるところ、本件公式発表の内容は、原告が本件一連の詐欺事件のうち、被害者Aを除くその余の事件の一部に共犯者として関与していたというものにすぎず、原告の関与した事件の概要すら明らかでないものではあるが、右の真実と認められた事実と大綱において符合するものであるから、本件発表にかかる事実は真実であるというを妨げず、したがって、本件公式発表に違法性はなく、不法行為は成立しないものというべきである。

二  違法な拘禁・取調による人権侵害の主張について

原告が昭和四九年三月一四日、被害者星空澄渡及び同雪中白色に対する各詐欺容疑により逮捕され、多治見警察署留置場に約二週間拘禁され、その間に右各容疑の外形的事実につき自白するに至ったこと、原告の拘禁されていた独房廊下に電燈が吊り下げられており、始終点燈されていたこと及び右電燈は自在に方向を変えられるものであったことは当事者間に争いがない。

原告は、右電燈が原告が姿勢を変える度に、自在に方向を変えて原告を照射し続け、原告が就寝に際し消燈してほしい旨懇請しても聞き入れられなかったため、原告は夜間の睡眠が妨げられて疲労し、食事も満足に採れず胃腸を害し、さらに疲労と緊張から精神状態に異常を来し、遂に虚偽の自白をなすに至った旨主張し、《証拠省略》中には右主張に沿う各供述部分がある。

しかしながら、他方、《証拠省略》を総合すると、多治見警察署留置場内には看守席が設けられ、看守勤務計画に基づき看守勤務員が交替で各独房を看守していること、各独房内の照明のため各独房裏廊下に設置された一〇〇ワットの電燈は、保安上の必要から夜間はつけ放しとされているが、通常、拘禁されている者が読書等をする場合以外は、拘禁されている者に右電燈を向けることを避け、ただ保安上の明るさを保つように管理されていること、原告の留置方法につき、当直の看守勤務員に対し何ら特別な指示はなされておらず、したがって、原告の独房の照明も右に述べた通常の方法によって管理されていたものと推認できること、原告が勾留された後まもなく弁護人に選任された石垣弁護士や原告に面会した原告の母親及び原告のいずれからも、原告の留置状況につき何ら苦情あるいは申入れがなされた事実はないこと、原告は逮捕されてまもなく胃が悪い旨申し出たため、昭和四九年三月一五日に田ノ井医師の診察を受け、胃カタルと診断されたものの、その後釈放されるまで原告の健康状態にとくに変化のなかったこと、原告は、当初は前記各詐欺容疑につき、丙川三郎との共謀の点を否認していたが、前記2のとおり同月一八日に至りその一部を自白するに至ったこと、以上の事実が認められ、右事実に照らし、《証拠省略》はいずれも信用し難いものといわざるをえず、他に前記原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。

三  以上の次第であるから、被告県において名誉毀損の不法行為は成立せず、また違法な拘禁・取調をした事実も認められないから、これらを前提とする原告の被告県に対する本件請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由のないことが明らかである。

第二  被告新聞社に対する請求について

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、本件記事中請求原因1記載の部分は、これを読んだ一般読者に対し、原告が本件一連の詐欺事件のすべてにつき共犯者であり、とくに「事件の概要」に記載の被害者Aに対する詐欺事件につき主犯として関与したとの印象を与えるものであると主張する。

そこで、まず本件記事の内容について検討するに、《証拠省略》及び右請求原因1の事実を総合すると、本件記事は、原告を含む五名の被疑者が本件一連の詐欺容疑で検挙された旨の記事であるが、見出し、本文及び原告らの顔写真で構成され、右本文は冒頭部分、「事件の概要」と題する部分及び「犯罪の手口」と題する部分で構成されていることは一見して明らかであり、右顔写真は丙川三郎のそれが最上段(原告のそれは下から二番目)に配列されていること、請求原因1に掲記の本文記事は冒頭部分及び「事件の概要」部分の前段に該当しており、これに引き続き以下のとおりの記事が記載されていること、すなわち、「事件の概要」の後段として、五人が「このほか昨年二月からことし一月までに、加茂郡、恵那郡内で十四ヶ所のやせた山林およそ十三万平方メートルを、安く手に入れ、土岐、多治見市、土岐郡笠原町内の製陶業者や商店主ら十人に三倍から十倍の値段で売り、現金約一億円をかせいでいた。五人は同級生、あるいは仕事関係の結びつきで、かせいだ金で名古屋市内のバーやキャバレーで一晩に百万円も使うなど豪遊していた。」との記載があり、さらに引き続き、「犯罪の手口」と題し、「実に巧妙。Aさんの例をみると……。まず主犯格の丙川が荒れた山林を二三十万円で手に入れ、このあと戊草が“売り主”(土地所有者)、乙山が“買い主”、丙川が“仲介人”とそれぞれ役を決め、まず丙川が六月にAさんに接触、「戊草さんの土地を乙山さんが三千万円で八月に買う予定が、金がないため、手付金を自分を通して三百万円だけ払っている。しかし、戊草さんは早く金がほしいので二千四百万円なら売るといっている」と持ちかけた。Aさんが乙山方を訪れると、乙山は「山を見たが三千万円では安い。三百万円の手付は預けるので、あなたが買っておいてくれ、八月には三千万円で買う」とだました。このあと、丙川らはAさんを連れて七宗町内の全く関係のない杉林に案内して信用させ、三〇〇万円も渡した。Aさんは二ヵ月で六百万円の“利ザヤ”をかせげると信用、二一〇〇万円を払った。ところが、八月に乙山らを訪れると、「金がなくて買えないので申し訳ない。三百万円をあなたに上げます。土地も手に入ったのだからいいでしょう」と買い入れを断られた。Aさんは実際の山をみて初めてだまされたことに気づいたという。このほか、同じ手口でそれぞれ“役者”を変え荒れた山林を不当に高く売りつけていた。」との記載がなされていることが認められる。

以上の事実よれば、本件記事中原告が請求原因1において引用する部分、とくに見出しと「事件の概要」の一部は、右部分のみ拾い読みをするときは、原告が被害者Aに対する詐欺事件を含む本件一連の詐欺事件のすべてに関与していたかのような印象を与える可能性のあることはこれを否定し難いものの、右「事件の概要」部分は逮捕された原告と乙山二郎の氏名を先にして被疑者五名の氏名等を列挙するとともに、右表題からも明らかなとおり、右五名のグループが被害者Aに対する詐欺事件を始めとして被害総額一億円にのぼる本件一連の詐欺事件を敢行したことを概括的に記載しているにとどまり、右五名がそれぞれ本件一連の詐欺事件にどのように関与したかについてまで明らかにすることを意図したものではなく、他方「犯罪の手口」部分においては、まず丙川三郎が「主犯格」であることを明記したうえ、同人と乙山二郎及び戊草五郎の三名により行われた被害者Aに対する詐欺事件の「手口」が例示されたのち、「このほか同じ手口で」行われた一連の詐欺事件があり、しかもそれらの事件は「それぞれ“役者”を変えて」行われたことが明示されており、したがって、本件記事は、本件一連の詐欺事件が、丙川三郎を主犯格とする五人組のうちそれぞれその一部の者らによって例示の「手口」と同じ手口で次々と行われた旨を報道したにすぎないものであって、以上の本件記事を通読すれば、原告は本件一連の詐欺事件を敢行した五名のうちの主犯格ではなく、これに加わってはいるが、一例として挙げられた被害者Aに対する詐欺事件には何ら関与しておらず、その余の事件の一部に関与しているにすぎないことが明らかに看取できるものといわなければならない。

原告は、新聞記事による名誉毀損の成否は一般読者の普通の注意・関心と通常の読み方とを基準として一般読者が当該記事から受ける印象に従って判断すべきところ、一般読者はまず見出しと冒頭に報道された記事を読み、これによって最も強く印象づけられるのであるから、本件記事の見出しと本文冒頭部分に請求原因1記載の記事が掲載されている以上、本件記事中その余の部分の記事内容にもかかわらず、本件記事を読んだ一般読者に対し、原告が本件一連の詐欺事件のすべてにつき共犯者として、とくに被害者Aに対する詐欺事件につき主犯格として関与したとの印象を与えるものである旨主張する。そこで、判断するに、一定の新聞記事の内容が人の名誉を毀損する意味のものであるか否かは一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきことは所論のとおりであるとしても、一般に新聞記事の見出しは簡略かつ端的に内容を表示して読者の注意を喚起し、本文を読ませんとする意図を有するものであって、それに注意を喚起された読者は本文をその冒頭部分だけでなく末尾まで読了することが通常の読み方であることからすれば、見出しないしこれに準ずる冒頭記事の表現ないし内容が、本文記事の内容から著しく逸脱しているなど、それ自体別個独立の記事とみざるを得ないような場合でない限り、記事全体によってその趣旨を判断すべきであって、原告主張のように本件記事のなかから見出し又は本文の一部をことさらに取出して個別に判断するのは相当でないというべきである。そして、右に説示した通常の読み方を前提として本件記事を通読するならば、本件記事は主犯者丙川を中心としてこれに連なる合計五人の被疑者らによりその都度行為者を異にして行われた本件一連の同一手口による詐欺事件の全貌を概括して報道することに主眼があって、例示の事件を除きその余の事件についてまでその内容を個別的・具体的に詳述したものではなく、とくに原告に関しては、原告が本件一連の詐欺事件の一部に共犯者として関与したことを報道したにとどまり、原告主張のように、原告が被害者Aに対する詐欺事件に主犯格として関与したとの事実を報道するものでないことはもちろん、本件一連の詐欺事件の全部に共犯者として関与したとの報道をしたものでないことは、右記事自体から容易に看取できるのであって、このことはさきに認定したとおりである。そうすると、原告の主張中本件記事の趣旨に関する右主張部分は本件記事のうち見出し及び「事件の概要」の前段のみを根拠とし、かつ誤解に基づくものというべく、到底採用できない。

三  ところで、本件記事が原告主張のとおりの内容のものではなく、右に認定したとおりのものであるとしても、原告に関し本件一連の詐欺事件の一部に共犯者として関与したとの内容を含む以上、その事柄の性質上原告の名誉及び信用を毀損するものであることは明らかである。

そこで、その不法行為の成否について判断するに、一般に新聞により報道された内容が、人の名誉、信用を毀損するようなものを含んでいる場合であっても、その内容が公共の利害に関する事柄であって、専ら、公益を図る目的に出た場合であり、かつその内容が真実であることが証明されたときには、右報道には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である。

そして、前記認定事実によれば、本件記事の報道内容はまだ公訴の提起されていない人の犯罪行為に関するものであるから、公共の利害に関する事柄であり、その報道が、専ら、公益を図る目的でされたことを推認するに難くないというべきである。

そこで次に、本件記事の報道内容が真実であるか否かについて判断する。

上記認定事実によれば、本件記事は主犯者丙川を中心としてそれに連なる合計五人の被疑者らによりその都度行為者を異にして行われた本件一連の同一手口による詐欺事件の全貌を概括して報道することに主眼があったため、被疑者ごとにその関与した事件の数及び内容を詳述したものではなく、したがって原告に関しても、原告が本件一連の詐欺事件の一部に共犯者として関与したことを報道したにとどまり、原告が関与した事件の数及び内容については触れていないところ、原告が本件一連の詐欺事件の一部である被害者雪中白色及び同星空澄渡に対する各詐欺事件に主犯者丙川の共犯者として関与したものであることは、前記第一の一2で認定したとおりであるから、本件記事の内容はその大綱において真実であるというを妨げないというべきである。もっとも、《証拠省略》によれば、本件記事中原告が請求原因1において指摘する見出し等の部分が警察当局の本件公式発表及び他社の記事と比較していささか誇張的で興味本位に取扱われている感がなくもないが、前記見出しないしこれに準ずる冒頭記事の性格上多少誇張された表現になってもやむを得ないものであり、また右見出し等原告主張部分が本文記事の内容と著しく相違しているとは認められない本件においては、右のような記載があっても、結局本件記事はその大綱において真実に合致するものとして許容される範囲内にとどまるものというべきである。

したがって、本件記事に違法性はないから、被告新聞社の不法行為は成立しないものというべきである。

四  以上の次第であるから、被告新聞社には不法行為は成立せず、したがってこれが成立することを前提とする原告の本件請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由のないことが明らかである。

第三  以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺剛男 裁判官 松永眞明 筏津順子)

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